36協定における月80時間の残業の上限とは?月80時間超の面接指導制度

いわゆる「36協定」を結んで適切に届け出れば、法定労働時間を超える残業が可能となります。
しかし、その場合でも、際限なく労働者に残業をさせることができるわけではありません。

1ヵ月あたり80時間もの残業が発生しているケースは問題が多く、医師による面接指導も必要となってきます。
今回は、「月80時間残業」にまつわる問題について、解説していきます。

36協定の概要と届け出が必要なケース

まずは、36協定の概要、法定労働時間と所定労働時間の違い、36協定の届出が必要になるケースについて解説します。

(1)36協定を結べば法定労働時間を超えても違法にならない

法定労働時間とは、労働基準法第32条で定められている労働時間のことをいい、1日8時間、週40時間が原則とされています。

この時間を超える時間外労働、または休日労働をさせた場合には、原則として労働基準法違反となります。

1項 使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。
2項 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。

引用:労働基準法第32条

しかし、従業員が少ないなどの特別な事情で残業が避けられないこともあるでしょう。その場合、法定労働時間を超えて残業をさせることを認める旨の「時間外労働・休日労働に関する協定書」を労働者・使用者間で締結し、使用者が所轄の労働基準監督署長に届け出ることによって、法定労働時間を超えて残業をさせることができるようになります。

この労使協定は、労働基準法36条に基づくことから、一般に36協定(サブロク協定)と呼ばれています。

(2)時間外労働で36協定が必要になるケース

前述のとおり、法定労働時間を超えて労働者に労働をさせる場合には、36協定の締結および届け出が必要になります。

また、労働時間を考えるうえでは、所定労働時間と法定労働時間の違いを把握する必要があります。

所定労働時間は、企業が就業規則などで定めた労働時間のことをいい、法定労働時間を超えた所定労働時間を設定することは許されません。

適切に所定労働時間が設定されている場合は、所定労働時間を超える残業をしたとしても、週40時間を超えなければ法定内残業となり、法定労働時間の規定に違反することにならないため、36協定の締結および届け出は必要ありません。

(3)休日労働で36協定が必要になるケース

法定休日に労働させるためには、労働時間が週40時間を超えていなくても、36協定の締結および届け出が必要です。

法定休日とは、労働基準法で定められている、使用者が労働者に必ず与えなければならない休日のことをいいます。
1項 使用者は、労働者に対して、毎週少くとも1回の休日を与えなければならない。
2項 前項の規定は、4週間を通じ4日以上の休日を与える使用者については適用しない。

引用:労働基準法第35条

一方、土日が休日、かつ土曜日が法定休日とされている会社の場合、日曜日は法定外休日ということになるので、日曜日を含めた週の労働時間が40時間以内に収まっていれば、日曜日の休日出勤を可能とするにあたっては、36協定の届け出は必要ありません。

(4)36協定の届け出が必要な雇用形態

週40時間以上にわたって働く可能性があるアルバイトやパート社員、契約社員も、正社員と同様に36協定の対象となります。

一方、派遣社員の場合は、派遣先企業に直接雇用されているわけではないため、派遣先企業で残業をする場合でも、雇用関係にある派遣元の企業(派遣会社)が労働者側と36協定を締結し届け出る必要があります。

なお、36協定はすべての企業が対象であり、雇用する労働者が1人であったとしても締結および届け出が必要となります。

法改正による36協定の月80時間の上限規制とは?

労働基準法が改正された背景や、36協定を締結した場合の新たな時間外労働の上限規制について解説します。

(1)労働基準法改正のあらまし

これまでも、法定時間を超える時間外労働には上限時間の基準が定められていましたが、厚生労働大臣の告示による行政指導にとどまっており、法律上は上限を定める規定がありませんでした。そのため、特別条項付きの36協定を締結すれば、年720時間を超える残業が事実上可能でした。

これが、働き方改革関連法施行による労働基準法の改正によって改められ、時間外労働時間の上限が法律上でも規定されました。

これによって、36協定を労使間で締結し、特別条項を付けたとしても、時間外労働には一定の上限規制が設けられることとなったのです。

(2)法改正による時間外労働の上限

法改正によって定められた時間外労働の上限規制は、以下のような内容となっています。

36協定による時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間を超えることはできません(労働基準法第36条4項)。

もっとも、36協定に特別条項を定めたうえで労使が合意すれば、臨時的な特別の必要性がある場合に限り、月45時間を超える時間外労働が認められます。

そして、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、残業時間については、以下のような上限規制を守らなくてはならないこととなりました。

  • 時間外労働は年720時間以内(労働基準法第36条5項かっこ書き)
  • 時間外労働及び休日労働の合計が、複数月(2~6ヵ月のすべて)平均で80時間以内(同法第36条6項3号)
  • 時間外労働および休日労働の合計が、1ヵ月あたり100時間未満(同法第36条6項2号)
  • 原則である1ヵ月あたり45時間を超えられるのは1年につき6ヵ月以内(同法第36条5項かっこ書き)

(3)月80時間の上限規制とは?

上記のとおり、時間外労働と休日労働の合計は、1年をとおして常に、月100時間未満、2~6ヵ月平均で「80時間以内」にしなければなりません。

時間外労働が月45時間以内で特別条項に該当しない場合でも、時間外労働と休日労働の合計が月100時間を超えると違法になります。

(4)上限規制に違反した場合の罰則

改正前の時間外労働の上限規制は法的根拠がなく、上限がない内容で36協定を締結すれば何時間でも残業をさせることが可能でした。

しかし改正後は、上限規制が法的根拠に基づくものとなったうえ、罰則が規定され、上限規制に従わない使用者は罰則の対象になることとなりました。
具体的には、時間外労働の上限規制に違反した場合には、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがあります(労働基準法第119条)。

参考:時間外労働の上限規制|厚生労働省

月80時間超の時間外労働は医師の面接指導が必要

それでは、面接指導制度の概要や、面接指導を必要とする要件が「月80時間超の時間外労働」に改正された趣旨について、解説いたします。

(1)長時間労働者の面接指導制度とは?

事業者には、月80時間を超える時間外労働や休日労働があり、疲労の蓄積による健康障害のリスクが高い労働者に対して、医師(産業医)による面接指導を行うことが義務付けられています。

面接指導制度は、労働安全衛生法(第66条の8)および労働安全衛生規則(第52条の2および3)を根拠とするものです。

長時間労働は脳血管疾患や虚血性心疾患を発症するリスクを高めるため、面接指導によって健康状態を定期的にチェックすることにより、そのような病気を未然に防ぐことが目的とされています。

また、長時間労働によって発症することも多いうつ病などの精神疾患の予防に向けて、メンタルヘルス面の指導を行うことも求められます。

(2)医師の面接指導は月80時間超に改正

面接指導が求められる残業時間の要件は、法改正前は「月100時間超」でしたが、改正後は「月80時間超」に変更されました。

また、当該労働者の申し出によることが要件に追加(労働安全衛生規則第52条の3)されたこと、労働者本人に月80時間を超えた時間に関する情報を通知することも変更点です。

月80時間の時間外労働は過労死ライン

1ヵ月あたりの時間外労働が平均して80時間を超える場合には、過労による健康被害や精神障害が発生するリスクが高くなるとされています。
このことから、1ヵ月あたり80時間という残業時間の水準を「過労死ライン」と呼ぶことがあります。

過労死ラインを超えるような長時間労働が続いており、疲労が取れない、体調がすぐれないなどの問題がある場合には、早期解決に向けて弁護士への相談を検討すべきでしょう。
個人が会社と戦うのは難しいことが多く、やがて労働審判や訴訟に展開する可能性があるとなればなおさらです。

相談窓口としては、弁護士のほかに労働基準監督署も考えられます。
ただし、労働基準監督署の役割はあくまで労働環境の改善・指導を求めることです。個々の労働者のトラブルを解決することを目的とはしていないため、具体的な問題解決に向けての効果は限定的なものといえます。

残業の実態を証明する証拠を集めたり、適切な主張を展開したりする必要もあることを考えれば、問題解決にあたって弁護士に依頼するメリットは大きいといえるでしょう。

【まとめ】月80時間の残業は違法となる可能性大!健康面でも危険

  • 法定労働時間を超える時間外労働や休日労働を適法とするためには、労働基準法第36条に基づく労使協定を締結して労働基準監督署に届け出る必要があり、この協定のことを「36協定」と呼びます。
  • 改正労働基準法の施行(2019年)により、36協定の内容とすることができる時間外労働は、法律上、原則として「月45時間、年360時間」が上限とされました。36協定に特別条項をつけて労使が合意すればこの上限を超えることができますが、その場合でも「年720時間」「休日労働との合計は、月100時間未満かつ複数月平均が月80時間以下」「月45時間の上限を超えられるのは年6回まで」という時間外労働の上限規制があります。月80時間の時間外労働はそれだけで即違法とはなりませんが、その状態が続けば上限規制に抵触する可能性が高くなります。
  • 時間外・休日労働が月80時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる場合には、労働者の申し出によって医師の面談指導が必要とされます。
  • 月80時間を超える時間外・休日労働は「過労死ライン」とされ、健康被害が発生するリスクが高くなるとされるため、早めに弁護士などに相談すべきでしょう。

長時間労働について相談・解決したい方は、弁護士や、労働基準監督署などの公的機関にご相談ください。

この記事の監修弁護士
髙野 文幸
弁護士 髙野 文幸

弁護士に相談に来られる方々の事案は千差万別であり、相談を受けた弁護士には事案に応じた適格な法的助言が求められます。しかしながら、単なる法的助言の提供に終始してはいけません。依頼者の方と共に事案に向き合い、できるだけ依頼者の方の利益となる解決ができないかと真撃に取り組む姿勢がなければ、弁護士は依頼者の方から信頼を得られません。私は、そうした姿勢をもってご相談を受けた事案に取り組み、皆様方のお役に立てられますよう努力する所存であります。

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